長崎大学病院・CLiP肝細胞研究グループ

プロジェクトのご挨拶

肝疾患治療の未来を切り拓く
成熟した肝細胞の可塑性を引き出すという、新しい再生医療への挑戦

非代償性肝硬変に対する新たな治療の可能性を求めて

長崎大学大学院 移植・消化器外科
教授

江口 晋

本研究は、非代償性肝硬変という治療選択肢が限られた疾患に対して、新たな治療の可能性を検証することを目的として実施しております。

肝硬変は、慢性的な肝障害の進行により肝臓の構造や機能が変化し、進行すると腹水や肝性脳症、出血などを伴い、日常生活に大きな影響を及ぼす疾患です。現在、根本的な治療は肝移植に限られていますが、ドナー不足や年齢・全身状態などの制約により、すべての患者さまがその治療を受けられるわけではありません。

本研究では、患者さまご自身の肝臓から採取した細胞をもとに作製した肝前駆細胞(CLP-001)を用い、それを門脈から肝臓の中へお戻しするという新しい再生医療のアプローチに取り組んでいます。これまで基礎研究および非臨床試験において一定の知見が得られてきたことから、今回、臨床の場においてその安全性および有効性(探索的)を検証する段階に至りました。

一方で、本研究は人に対して初めて実施される治療を含んでおり、その効果や安全性が確立されているものではありません。本研究の主たる目的は安全性の確認であり、必ずしも症状の改善が得られるとは限らない点について、十分にご理解いただく必要があります。

私たちは、患者さまの安全と尊厳を最優先に、倫理的・科学的根拠に基づいた慎重な研究を進めてまいります。本研究に関心をお持ちの方は、まずは主治医または当院までご相談ください。

肝疾患に対する新たな治療の選択肢の確立を目指して

東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門
特任教授

落谷 孝広

再生医療はこれまで、幹細胞やiPS細胞などを用いて失われた組織や臓器の機能回復を目指し発展してきました。しかし、実際の臨床応用においては、安全性や腫瘍化リスク、細胞供給の安定性といった課題があり、特に肝疾患領域では実用化に至った治療は限られています。

こうした背景のもと、私たちは「成熟した肝細胞そのものの可塑性を引き出す」という新しいアプローチに着目し、CLiP(化学的に誘導された肝前駆細胞)の開発を進めてきました。この技術は、特定の低分子化合物を用いることで、遺伝子改変を伴わずに肝細胞を増殖可能な状態へと導く点に特徴があります。

本技術は2017年にCell Stem Cell誌に報告した基礎研究を出発点としており、その後の研究において、動物モデルでは肝線維化の抑制や肝組織の再構築を示唆する結果が得られています。さらに、移植された細胞そのものの働きに加え、細胞から分泌される因子や細胞間コミュニケーションを介した作用も関与している可能性が示唆されており、再生医療の新たな作用機序として注目されています。

一方で、再生医療において最も重要なのは、これらの基礎研究の成果をいかに安全に臨床へとつなげるかという点です。長崎大学の江口教授らとの共同研究は、外科的手技や細胞製造技術と統合し、この課題に取り組むものであり、本研究はその到達点の一つです。

ただし、本研究は人に対して初めて実施される段階であり、安全性および有効性は確立されていません。あくまで初期段階の臨床研究として、慎重な評価が必要です。

本研究を通じて得られる知見が、将来的に肝疾患に対する新たな治療の選択肢の確立につながることを期待しています。